【読書感想言わない文】羊と鋼の森

羊と鋼の森」(宮下 奈都)

 

[紹介文]

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、

調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。

ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。

個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、

調律の森へと深く分け入っていくー。

一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

解説・佐藤多佳子

 

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人工知能の台頭により、

答えの出る問題を解くことや

答えの出る仕事をこなすことは

もはや人間のすることではなくなる。

そんな時代がやってくると世間は言う。

 

確かに、人工知能を引き合いに出さずとも

すでに機械化・自動化されて

人間のすることではなくなったものはたくさんある。

 

例えば、北海道函館への旅行をするとしよう。

交通手段として飛行機・新幹線いずれを選ぶにしろ、

窓口でチケットを求めるよりもネットで予約を済ます人が多いだろう。

電車であれば、改札で切符を通せば

料金不足で通過できない場合は自動で判断されるが

昔は駅員が一枚一枚に鋏を入れていた。

北海道に到着すればスマホで日本語・英語・中国語・韓国語で

お薦めスポットの情報を瞬時に手に入れられるし、

 美味しい食事は食べログぐるなびで検索できる。

もはやガイドの果たす役割もかなり限定的だ。

宿泊先もネットで予約を完結できるので、

予約受付の業務もだいぶ効率的になっている。

しかも、いずれも現金を使わずにカードなどで決算できる。

 

デジタルネイティブからみたら当たり前の世の中は、

一世紀前の人間が見たら腰を抜かすレベルである。

とくにここ十年、二十年の技術革新は

ドラゴンボールの戦闘力のハイパーインフレ

つい想起してしまう。

ヤムチャに活躍の場はないのだ。

 

答えの出る問題や仕事をこなせない人間であれば

厳しい状況に追いやられるのは間違いないのだろう。

 

では、どうするか。

 

勉強するしかないだろう。

 

飛行機を飛ばすのも新幹線を走らせるのも

ネット決済のシステムもマルチリンガルシステムも

この社会を支えているテクノロジーの根源は

これまでの人類の英知を引き継ぎ発展したものであり

消費者はその先端部分を享受している。

 

そこには絶えず創造と革新があった。

そしてその裏には、

誰かの為にと心の底から思いやる人がいて、

できると信じて千や万の失敗を繰り返してもめげない人がいて、

思いがけないところから閃きを得た人がいて。

 

何もコンピュータと計算勝負をする必要はなく、

AIには出来ないことを創り出すために

勉強を重ねていくしかない。

 

羊と鋼の森」は調律師を主人公とした物語である。

調律は単に音の高さを整えるだけではなく

「明るい音」とか「くっきりした音」とか、

ピアニストが求めている音を作っていかなければならない、

答えのないところに答えを出していく仕事だ。

 

さらに、ピアノの個体差、湿度や温度、会場によっても音が変わる。

 

自分の思い描く音をつくり出すことができる職人がいれば

ピアニストにとって、なくてはならない相棒になるのだろう。

 

この仕事は、AIや機械ではできない。

 

そして、この主人公のように

「これだ」といった仕事に出会い、

何を差し置いても没頭してしまう人間こそが

豊かな社会をつくり出してきたのだろう。

 

生徒のみんなにも、どうかそんな出会いがあってほしいし

そのためにも勉強を続けてほしい。